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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)141号 判決 1995年9月12日

フランス国

ヌイイ シュール セーヌ 92200、ブールバール ビクトル・ユーゴー 62

原告

オートモビーユ シトロエン

同代表者

ヘンリー フェビアン

同訴訟代理人弁理士

浅村皓

小池恒明

宇佐見利二

村上政弘

岩井秀生

大阪市中央区南船場3丁目5番17号

被告

菱屋 株式会社

同代表者代表取締役

岡部武

主文

1  特許庁が平成4年審判第4614号事件について平成6年12月15日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

原告は、主文同旨の判決を求めた。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成2年9月25日商標登録出願(平成2年商標登録願第107063号)をしたところ、別紙構成からなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前)別表第17類「被服、布製身回品、寝具類」とする商標登録第1537386号(昭和52年4月4日商標登録出願、昭和57年9月30日設定登録、平成5年3月30日更新登録、以下「本件商標」という。)の商標が引用された拒絶理由通知を受けたので、平成4年3月19日本件商標の商標権者たる被告に対し、上記指定商品中の商品「洋服 コート」について不使用を理由に商標登録を取り消すべき旨の審判を請求し、平成4年審判第4614号事件として審理された結果、平成6年12月15日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成7年2月1日原告に送達された。なお、原告のための出訴期間として90日が附加された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件商標の構成、指定商品等は、前項記載のとおりであり、なお、指定商品については、平成4年12月7日の審決により、指定商品中の「セーター類、ワイシャツ類、下着、ねまき類」「帽子、ナイトキャップ、ずきん、ヘルメット、すげがさ、頭から冠る防虫網」「和服、溶接マスク、防毒マスク、防じんマスク、防火被服、布製身回品、寝具類」について取り消され、平成5年6月10日その審判の確定登録がなされた。

(2)  請求人(原告)は、次のとおり主張する。

<1> 請求人は、その出願に係る平成2年商標登録願第107063号について、本件商標が引用された拒絶理由通知を受けたもので、本件審判請求について利害関係を有する。

<2> 本件商標は、被請求人によって過去3年以上に亘って、その指定商品中「洋服 コート」について使用されていないし、本件商標の商標権について専用使用権者も通常使用権者も存在しないことが推認し得るから、商標法50条の規定により取消しを免れない。

<3> 被請求人は、本件商標をその指定商品の「ワンピース、上衣」に使用し販売していると主張し、乙号各証を提出するが、そのうち書証といえるものは領収書のみであって、これとても、すべての領収書は同一の筆跡からなるものと認められ、また、添付の証明書の署名は領収書の宛名と同じような特徴をもった筆跡のものが認められ、また、その日付は本件審判請求の予告登録より1年半も前のものであるが、これらの特定人をどのように記録し管理していたものかの立証もなく、普通一般の取引の経験則からして到底考えられないものである。

また、領収書の作成者の氏名、職責、発行場所等についても何ら明示するものがない。

かかる乙号各証をもってしては、到底本件商標をその指定商品に使用しているものとは認め得ない。

<4> 本件商標を構成する図形は、請求人の名称の要部略称に係る「CITROEN」の文字とともに永年、商品自動車に使用し、フランスを代表する名車の商標として世界的に著名な図形と同一の構成からなるものであり、もし被請求人が主張するように、本件商標を日本の大きな都市で、その指定商品について使用し販売したときは、情報の発達した今日においては、比較的短時日のうちに、かかる事実があることを請求人またはその関係者が知り得ることができるものであるが、今日までかかる事実を確聞することはできなかった。

このことからも、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しているとは到底考えられない。

<5> よって、本件商標は、商標法50条1項の規定に該当し、指定商品中「洋服 コート」について、その登録は取り消されるべきである。

(3)  被請求人(被告)は、次のとおり主張する。

<1> 請求人は、その主張する平成2年商標登録願第107063号の願書において、請求人が「男子服製造業、婦人・子供服製造業、同卸売業、下着製造業、同卸売業、寝具製造業、同卸売業」の業務を行っているとしているが、その事実はなく、該業務の表示は虚偽である。かかる虚偽の業務を表示してなされた出願は、自己の業務に係る商品について使用する商標についての出願とはいえず、商標法3条柱書、同15条の規定によって拒絶されるべきである。

したがって、請求人が上記商標登録出願をしているとしても、本件審判請求について利害関係を有することにはならず、本件審判請求は却下されるべきである。

<2> 被請求人は、本件審判請求の予告登録前3年以内は勿論、それ以前から今日まで引き続き日本国内において本件商標を使用した商品「ワンピース、上衣」等を販売している。

<3> 被請求人は、請求人が書証として提出した領収書は同一の筆跡からなるものであると主張するが、一般に企業においては、金銭の取扱責任者を特定し、領収書の発行権限もその者に限ることが望ましく、被請求人もこの原則を忠実に実行し、特定人のみが領収書を発行することにしているから、被請求人発行の領収書記載の文字が同一の筆跡であることは当然である。

また、請求人は、証明書の署名と領収書の宛名が同じような特徴をもった筆跡であると主張するが、各証明書添付の領収書の文字と証明書の住所氏名の文字は、それぞれ作成者によって異なっていることは、一見して容易に看取し得るものである。

なお、請求人は、特定人をどのように記録し管理していたのかという疑問を呈しているが、顧客の管理が商品の販売促進活動にとって極めて重要であることは取引界における経験則であり、被請求人の如き小企業にあっては、顧客の中に顔見知りも多く、常々密接に対応しており、領収書の控等により特定の商品を購入した顧客を把握することも極めて容易であるため、顧客から事実の証明を得ることは困難なことではない。

また、請求人は、領収書に作成者の氏名、職責、発行場所等が表示されていないと主張するが、領収書は記載事項が厳格に定められているものではないし、通常領収書に記載される事項は、被請求人提出の証明書に添付した領収書に記載されている事項に止まるから、これによって当該領収書が効力を有しないことにはならない。

(4)<1>  よって、まず、請求人が本件審判請求をするにつき利害関係を有するかについて判断するに、請求人は、その出願に係る平成2年商標登録願第1070963号について、本件商標が引用された拒絶理由通知を受け、現在審査継続中であることが職権による調査で判明したから、請求人は上記利害関係を有するものである。

<2>  そこで、本案に入って審理するに、被請求人が提出した乙第1号証ないし第3号証、検乙第1号証ないし第3号証によれば、被請求人は、本件商標を本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品中に包含されている「ワンピース、上衣、ブラウス」に使用していたことを認めることができる。

<3>  したがって、本件商標の登録は、商標法50条の規定により、取り消すことはできない。

3  審決を取り消すべき理由

審判の認定判断のうち、(1)ないし(3)は認める、(4)<1>は認めるが、<2>、<3>は争う。

審決は、被請求人が提出した乙号各証により、被請求人は、本件商標を本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品中に包含されている「ワンピース、上衣、ブラウス」に使用していたことを認めることができると認定している。

しかしながら、これらの乙号各証は、その内容、成立ともに疑義があり、これらの証拠をもって上記事実を認定することはできないのであって、審決は、違法であるから取り消されるべきである。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  被告は、適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

そうすると、被告は、本訴において、本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内においてその請求に係る指定商品中の「ワンピース、上衣、ブラウス」等について登録商標の使用をしていることの主張立証をせず、すなわち、審決の認定判断が正当であることの主張立証をしない。

したがって、審決は、違法であって、取消しを免れない。

第2  よって、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙

本件商標

<省略>

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